あなたならどうする?




≪はじめに≫

このストーリーは extramf様『拍手1万記念企画』に乗っからせていただいたものです!!

よろしければ、最初にこちらをご覧ください。

既にこの企画をご存じの方(のほうが絶対に多いと思いますが)は、サクサクと以下↓へお進みください♪♪♪










世間的には、まだ新婚期間と言って差し支えない時期のこと。
「…ったく」
居間のソファに座ってテレビを見ていた早乙女アルトは少しばかり機嫌を損ねていた。
画面にチラリと映ったのはアルト自身がゲストとして出演したトーク番組の予告編だった。
モニター上に満面の笑顔を浮かべたホスト役がアルトに向けて質問している。
「新妻のシェリル・ノームさん、プライベートではどんなご様子?」
(新妻も何もあるもんか)
バジュラ戦役末期から同居してたし、実父の嵐蔵は不肖の息子のアルトなんかよりシェリルの方を可愛がっている有様だ。
何より、このホスト役が早乙女一門の興行より、シェリルのプライベートに興味津々なのが面白くない。
もちろん芸能界で生まれ育ったアルトにしてみれば予想済みの事だし、歌舞伎という業界の規模に比べて、シェリルが活躍するギャラクシーネットワークの音楽チャートの方が規模が大きい。
分かっているが、だからといって面白くないのは変わらない。
「今、皿洗ってるぜ」
画面に向けて独り言を言ったアルトは、ソファの背もたれ越しに後ろを振り返った。
リビングと境目無しにつながっているダイニングで、当のシェリルが朝食の食器を片付けていた。ピタッとしたレギンスにタイトなTシャツという姿で食卓の上を布巾で拭っている。
運動神経は下手なスポーツ選手より優れている癖に、家事の才能は壊滅的だったシェリルも、ずいぶん慣れてきた。
動きも要領良くなり、キビキビと小気味良く動く尻を眺めている内に、アルトは立ち上がりシェリルを背後から抱きしめた。
「やン」
うなじにキスされて首をすくめるシェリル。力強い腕の中で細い腰を捩らせる。
「ダメよ、サカっちゃ」
甘い声ながら伝法な言葉遣いでアルトをたしなめた。
「これからデートなんだから」
「え?」
アルトは少し驚いてシェリルの横顔を覗き込んだ。
「ヤダ、言ったわよ。嵐蔵さんとデート」
「どこで?」
「さぁ。お任せにしてるの」

▼▼▼ 以下改変部分 ▼▼▼

約束の時間の少し前に、シェリルは待ち合わせのホテルに着いた。
出る間際まで迷ったが、結局、朱鷺色のブラウスに白い七分丈のパンツを身に着けている。
「もう少し大人しめな格好のほうが・・・」
そう言ってクローゼットを漁っていたシェリルに
「別にいまさらカッコつけなくても平気だろ?」
そう言葉を投げたのはアルトだ。
そう・・・かしら?
小首を傾げるシェリルに
「あんまりらしくない格好してくのも変だろ?・・・家族なんだから」
そう、不思議そうに言い返してくる。
その言葉に妙に納得して、最近お気に入りのカジュアルな格好で来てしまったが・・・本当にコレでよかっただろうか?
やっぱり、せめてもう少し落ち着いた格好のほうが・・・今更そう思い直してみても、もう遅い。
思い切ってホテルに入ると、広々としたロビーを横切り、窓際のソファ席に向かう。
おそらく、と思っていたが、予想通り、嵐蔵は先に来ていた。
藤鼠の絽の単衣に黒の紗羽織を身につけ、ゆったりとソファに腰掛けている。
その視線の向こう、ホテルの中庭は緑に溢れ、設えられた池には、水鳥の姿が涼しげだ。
「お待たせしました」
急ぎ足で歩み寄り声をかけると、振り向いた顔は穏やかに微笑んでいた。
「やぁ、まだ時間前ですよ」
そう言いながらも、つかの間眩しそうにシェリルの姿を眺める。
すぐに気がついたような顔をすると、ゆっくりと立ち上がった。
「それでは、行きましょうか」

実はシェリルが独身の頃から、よくふたりで、時折こんなふうに外出していた。
嵐蔵がシェリルのことを何かと気にかけてくれ、折々に呼び出しては、あちこちへ連れて行ってくれたのだ。
でも、そういえばアルトと結婚してからは、二人きりででかけるのは今日が初めてだ。
そんなことを考えながら、嵐蔵よりも半歩後ろを歩く。
「今日はどこに連れていってくださるんですか?」
「暑いから、さっぱりとしたものがいいでしょう」
大通りから、一本中に入っただけで、辺りはもう別世界のように静かだ。
そのまま嵐蔵は、慣れた調子で、細い路地をどんどんと進んでいく。
いくつか角を曲がり、辿り着いたのは、小体な造りの日本家屋だった。
暖簾が出ていなければ、とても料理屋とは思えないだろう。
けれど、静かな住宅街にひっそりとたたずむ料理屋は、表は綺麗に掃き清められ、既に一度打ち水がされており、清々しい空気を纏っている。
嵐蔵は気軽に暖簾を上げると、中へ足を踏み入れた。
シェリルも後に続く。
「いらっしゃいませ」
迎える男性は店主だろうか。白い上っ張りに前掛けを締めている。
「これは・・・武蔵屋さん。いらっしゃいませ。お久しぶりですねぇ」
目を細めて笑う顔は、日に焼けて浅黒い。小鬢の辺りが銀色に変わっており、嵐蔵と同年代くらいだろう。
後ろから続いたシェリルに気がつくと、少し目を瞠ってみせた。
「おや、お珍しい。お連れ様がいらっしゃるとは。どちらさまですか?」
その問いに、嵐蔵は待っていたように笑う。
「娘だよ」
「ええっ!?・・・こりゃ、また随分と別嬪さんで・・・」
驚いた声をあげる料理人に
「奥、いいかい?」
そう確かめると、さっさと中に入っていってしまう。
慌てて、シェリルも続いた。
奥は座敷になっており、開け放した窓の外は、大きな池となっている。
「ここはちょうど公園の隣になっていてね。いわゆる”借景”ですよ」
嵐蔵は、まるで自分の家のように、そう言って笑って見せてから、ゆったりと腰を下ろす。
シェリルも、涼しげな池を眺めながら、向かいに腰を落ち着けた。

夏向きの口当たりのよい、さっぱりとした味付けの和食が運ばれてくる。
そのご馳走に舌鼓を打ちながら、ようやくシェリルは今日の目的の話をした。
「・・・プレゼント?」
「ええ・・・来週アルトが誕生日でしょう?」
そうだったかな?そんな顔の嵐蔵に、苦笑しながらも話を進める。
「いつも貰ってばかりで、全然良いプレゼントが思いつかなくて。・・・この後、お忙しいですか?」
「うん?」
「選ぶの、手伝っていただけないかと思いまして」
「・・・・・・」
シェリルの言葉に、嵐蔵は珍しく驚いた顔をした。
そのまま、手にしていた杯を置くと、無言で、じっと何事かを考えている。
「?」
不安そうに小首をかしげるシェリルに気がついて、顔を上げるとにやりと笑った。
「アイツにプレゼント、つまりは、アイツが喜ぶものを準備すればよいんですね?」
「え、ええ」
気おされたようなシェリルに、少々不穏に笑ってみせる。
それから嵐蔵は、再度、杯を手にした。
「分かりました。ちょうどいい。この後、お付き合いしましょう」
「・・・お願いします・・・」

食事を終え、気の良い店主に見送られて、そぞろ歩く。
まだまだ夏の日の午後は、暑い。
眩しい太陽が、燦々と照りつけてくる。
木陰を選んで歩きながら、嵐蔵が先ほどと同じ、何事かを企んでいるような顔で、振り向いた。
「少しだけ歩きますが、大丈夫ですか?」
「はい」
頷くと、肩を並べて歩く。
嵐蔵は、足が速い。草履履きだとは思えない足さばきで、どんどん先へと進んでいく。
カジュアルな格好で良かった。
そう思いながら、シェリルはぴたりと隣について歩く。
つい先ほど入ってきた路地まで、一旦戻ると、今度は違う方角に折れた。
少なくとも、大通りへ向かう気配はない。
?・・・どこに行くのかしら?
大人しくついていくと、どんどん人気のないほうへと向かい、ようやく辿り着いたのは、大きな朱塗りの鳥居の下だった。
「ここは・・・」
あんぐりと口を開けて、鳥居を見上げるシェリルに、嵐蔵が笑う。
「近くでちょうど良かった。ここは、昔・・・アイツが生まれたときに、お守りを戴いた神社なんですよ」
「あっ・・・」
すぐに気がついた。あの、いつもアルトが身に着けている肌守りだ。
この神社で・・・。
そう知ると、大きな鳥居も、うっそうと茂る小さな森も、足元の古めかしい石畳も、見るもの全てが、アルトのルーツにつながるような気がしてくるから不思議だ。
嵐蔵の後をついて、鳥居をくぐると拝殿のほうへと向かった。

ここでもやはり顔見知りの宮司に迎えられ、案内されるままに身を清め、拝殿に上がった。そのまま二人で恭しくご祈祷を受ける。
朗々と唱えられる祝詞の声に、心が静まり平穏に凪いで行くのが分かる。
ああ、いつの間にか、ずいぶんと緊張していたんだな、と、ふと気がついた。
結婚にまつわる様々な出来事は、もちろん、非常に喜ばしいことであったが、その喜びの大きさの分だけ、非常に大変なことでもあったのだ。
失敗なく、全てを完璧に。そう思えば、思うほどに、やるべきことは次から次へと増え続けてしまった。
ちょうど、ようやく最近、少し落ち着いてきたところだ。
頭をたれて、祈りを捧げ、最後にアルトが持っているものと同じ、肌守りを戴く。
驚いたのは、神社を出てからの嵐蔵の言葉だった。
「その、肌守り」
「はい」
「それが、わたしからアイツへのプレゼントですから」
「・・・え?」
言われている意味が、すぐには飲み込めなかった。
・・・それは、つまり・・・。
「あ、このお守りをアルトへ、ということですか?」
「いやいや、そのお守りはシェリルさん、あなたに」
「・・・?・・・」
ワケが分からない、そんな顔をしていたのだろう。
嵐蔵が、苦笑する。
「うちでは代々、子供が生まれると、こちらの神社でお守りを戴くのですよ。
あなたもわたしの娘になったのだから、良かったら、こちらの神社のお守りを持っていてください」
「あ、ありがとうございます。・・・でも・・・」
「アイツは、あなたのことが一番だから。わたしがアイツに何かするよりも、こちらのほうが余程喜ぶでしょう」
「・・・はぁ?」
「だから、あなたにあげたそのお守りが、わたしからアイツへのプレゼントということです」
「・・・・・・」
どうやら。
つまり、シェリルへ肌守りを持たせることが、嵐蔵からアルトへの誕生日プレゼントということらしい・・・。
その、あまりに突飛な論理に眩暈がした。
「で、でも・・・あの・・・」
慌てるシェリルを、嵐蔵は軽く笑っていなす。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。たぶんアイツも納得しますよ。さ、行きましょう。帰りがあまり遅くなるのもよくない」
「・・・・・・」
気がつけば、少しずつ、陽が西に傾き始めている。

「というわけなの」
帰ってきたシェリルが、眉をハの字に落としながら、困った顔でアルトに訴える。
「嵐蔵さんなら、きっとアルトの欲しいものをご存知だと思ったのにーーー」
「・・・そりゃ、また・・・」
アルトは、さすがに言葉がない。
というか、むしろ。
内心、舌を巻いていた。
この歳になって、ここまで自分の父親に性格を読まれているってのは、我ながらどうなんだ?
「・・・やっぱり、人に頼らず、自分で考えろってことよねー?」
シェリルは、部屋着に着替えてくると、さっそくソファに座り込んだ。
そのまま、膝に端末を抱え込むと、すぐにネットワークに繋ぎ、ネットショッピングのカタログを呼び出している。
俯くほっそりとした首筋に、見たような細い紐を見つけて、アルトは思わず膝立ちのままにじり寄った。
肩先から覗き込むと、思った通り、細い紐の先、タンクトップの胸の谷間に、真新しい肌守りが、引っかかるように鎮座している。
思わず、指先でつまみあげた。
「本当に、お揃いなんだなー・・・」
「そうよ。だから、言ったでしょ?」
そう言いながらも、シェリルの目は、呼び出したカタログから離れない。
「ね、アルト。本当に何も欲しいもの、思いつかないのー?」
「うーん」
「もぉ、なるべく仕事が忙しくなる前に決めちゃいたいのよねー」
そう言いながらも、せわしくカタログに目を通している。
かの”銀河の妖精”が、貴重なオフのひとときをつぶして、こうして自分へのプレゼントに頭を悩ましてくれている。
・・・これより贅沢なものなんて、そうそうないだろう?
ふっと、口元に笑みが浮かぶ。
そんなアルトには気がつかず、シェリルは不意に思い出したように顔をあげた。
「あ、そうそう」
「うん?」
「今日、嵐蔵さんから、お店の人に”娘”だって、紹介されちゃったー」
「えっ!?」
「すっごくドキドキしちゃった。いい響きだったわー。娘、なのよねぇ。うふふ。
今度こそ面と向かって”お義父様”って呼ばなくちゃ。やーん、緊張するー」
「・・・・・・」
あのくそ親父。思わず口の中で小さく呻る。
今回のことは、てっきりこちらの性格を読んでのことかと思ったが。
もしかして、ただの親バカか!?もちろん、その”親バカ”の向かう先はシェリルだ。
あまりにも身近にして最大のライバルに、アルトはひそかに闘争心を燃やす。
シェリルは、オレのものだ。絶対に譲らないからなっ!?
”銀河の妖精”の預かり知らぬところで、早乙女家の男たちの戦いは続く・・・?

▲▲▲ 改変部分以上 ▲▲▲





あとがき :
というわけで、「あなたならどうする?」こばとさんち編☆をお送りいたしました。
extramf様の選び抜かれた文章の後に、うちの駄文をつらつらと連ねることの辛さったら、もう!!
でもでも、嵐蔵パパが絡むとなると、どうしても何かしら書きたくなる、恐ろしい習性・・・。
本気で、自分が怖いです。あははははは(汗)
そ、それにそれに、お祝いですしね!!
なにしろ、拍手1万打って・・・あまりにも天文学的数字過ぎて、ぽっかりと口が空いてしまいます。
もちろん納得!でもありますけどね。
extramf様のサイトには、まさしくアルトとシェリルの”人生”があります☆
ワタシの中では、ほぼ”公式”です。
というか、むしろ公式に追いかけさせて欲しい・・・(真剣)
というわけで、”枯れ木も山のにぎわい”の流れに乗って、勇気を出してUpいたします☆
うちのシェリルは、とにかく早乙女家のアイドル☆なんですよん♪

嵐蔵パパ→アルトのプレゼント、とっても一生懸命考えたのですが・・・。
わりとつるっとこの”プレゼント”が思いついてしまい。
それ以降はどんなに振り絞っても、全く何も思いつきませんでした・・・。うう。
読み返しても、自分的にも”逃げてる?”という気もしないでもなく。
でも、そもそもウチはアルトもシェリルも、あんまりモノを送る習慣がないんですよね〜。なぜか・・・。
アルトなんて”地図”だし。シェリルのプレゼントはいまだ不明・・・(何か考えろよ、自分!)
スミマセン、もっと考えて何か思いついたら、おまけを載せます。
新婚のアルシェリ☆実はまだ書いたことがなかったので、非常に楽しく書かせていただきました。
今回一番書きたかったのはもちろん!嵐蔵さんの「娘だよ」の一言です♪
その一言を言うために、嵐蔵さんはシェリルを案内したことのない店に連れて行ったんだと思う!!

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
そしてそして、extramf様、拍手1万打おめでとうございましたーーー!!!